第9章 届いた手紙と蝶々結び
プレイラから手紙が届いたのは、ジョエルとのことがあってから四日後だった。
騎士団宛に届けられた手紙は、部隊ごとに分けられて専用の箱に入れられる。
その箱を覗いて自分宛のものがあれば取っていく。
ファンドレイは普段箱を覗いたりはしない。
けれど、その日はなんとなく――誰かからの手紙を待っているわけでは決してない、と本人は思っているが――箱をチラリと見た。
箱の中には十通ほどの手紙が溜まっている。
そういえば、幾人かは今週は実家に帰る期間だったな。
だから溜まっているのか、とファンドレイは思った。
「あ…」
その中に自分の名前が書かれたものがあるのに気が付く。
もしかして…と手を伸ばしたが、差出人が幼馴染みと知ってファンドレイはため息をついた。
また小言か?と思いながら封を開けると、便箋が一枚と中からもう一通手紙が出てきた。
(…なんだ?)
便箋を開いてみれば、ただ一言。
『私の大切な友達だから、失礼のないように』
一体何なのだ、と眉を顰めたがすぐに理解する。
ファンドレイは素早くその手紙を団服の内側のポケットに仕舞い込んだ。
今日の仕事はもうない。
普段なら一人で鍛錬場へ行っているところだ。
ファンドレイは少し考えて、人の少ない王宮内の図書室へと向かった。
そこでなら、ゆっくり手紙も読めるはずだ。
(それにしても…失礼のないように、だと? こっちは遊び相手にされてるんだぞ。それこそ失礼だろうが。…まさか、あいつもそうやって遊んでる…? いや、まさか。まさか…いや、それはない…よな。…あるのか…?)
ネイビー色の膝まである裾を翻して、ファンドレイは大股歩きで目的地へと突き進む。
途中ですれ違った侍女や同じ騎士団の仲間には黙礼をしていたが、彼らは剣呑な目つきでズカズカと歩いていくファンドレイが恐ろしく見えていたなどとは思いもしなかった。