第8章 売られた喧嘩~ファンドレイ視点~
「――これくらいで大丈夫ですか?」
「…もう少しだけ、きつくても大丈夫ですわ」
「…このくらいでしょうか」
「ええ…」
女のドレスの紐なんて、結んだことがない。
どれくらい締め付ければいいのか全く分らないが、苦しいよりはいいだろう。
ファンドレイはささっと紐を結んだ。
「立てますか」
「えぇ、ありがとうございます」
ジョエルを立たせ、ファンドレイも身なりを整える。
ドレスの背の紐を引っ張ったりしている内に、下半身が落ち着いてくれたのはよかったかもしれない。
勃起したままではさすがに戻れないからだ。
「ではジョエル様。お先に失礼いたします」
ファンドレイは一礼してジョエルに背を向けようとした。
「お、お待ちになって…!」
「…何か?」
ジョエルの必死そうな声に呼び止められて、ファンドレイは振り返る。
「あ、あの、ファンドレイ様…」
「…ファンドレイ、で構いません」
「あ…そう、でしたわね」
「今度は…いつ、お会いできますかしら」
小首を傾げて、まるで小さな子どもが「今度いつ遊びに来てくれるの?」とでも言うようにジョエルが尋ねてきた。
あざとい、それなのに、もう目が離せない。
甘美な罠にハマったのだ。
「――ジョエル様がお望みになるのなら、いつでも」
うっとりとファンドレイを見ていたジョエルの瞳は、今はもう落ち着いていた。
じぃっと見つめられて、ファンドレイはその居心地の悪さに眉を顰めた。
「では…お手紙を差し上げても…?」
「もちろん…お待ちしております」
手袋の上から、手の甲に口づける。
こうしてファンドレイはジョエルの遊び相手になった。