第8章 売られた喧嘩~ファンドレイ視点~
肘まであった手袋の下から、白い肌があらわになる。
素直に、綺麗だと思った。
ファンドレイはジョエルの手の甲に口付ける。
唇に当たる滑らかな皮膚の感触に驚いた。
しっとりしていて、吸い付くような肌触り。
唇を離すのが惜しくなって、ファンドレイはジョエルの手のあちこちに口づけた。
左手の甲から始まり、第一関節の間の窪み一つ一つ。
一本一本の指、そして爪にも。
手の平も柔らかくて、思わず舌を這わせたくなるのを辛うじて我慢した。
「んっ…」
ジョエルの右手首の内側にもちゅ、とキスをした。
ぴくり、と反応をするジョエルにファンドレイは自分が随分興奮していることに気づく。
けれど、もう今更止められない。
遊びにちょっと付き合ってやろう、と思っただけだったのに。
「ジョエル様…」
夢見心地のような表情で、ジョエルがファンドレイをじっと見つめてくる。
それは、キスをせがんでいるようにしか見えなかった。
ファンドレイは誘われるまま、顔を近づける。
鼻先がくっつくほどに近づいても、ジョエルは目を閉じない。
「――ジョエル様は、目を閉じぬ方がお好きですか?」
そっと吐息交じりに聞いてみれば、ジョエルははっとして首を振った。
「えっ…い、いえ…」
慌てたような彼女の様子に、ファンドレイはふ、と微かに息を漏らした。
もうここまで来ているのに、まだ猫を被っているのか、と思ったのだ。
ジョエルは目を閉じて、わずかに首を傾げて顎を突き出してきた。
ファンドレイはそれに応えて、彼女の顎を少し持ち上げ、その赤い唇に口づけた。
(やわらか…)
仄かな温もりを求めて、ファンドレイはジョエルに何度もキスをした。
ただ押し当てるだけではなくて、角度を変えて、上唇、下唇それぞれに口付ける。
それだけでは物足りなくなって、ファンドレイはジョエルの下唇をほんの少し食んだ。