第8章 売られた喧嘩~ファンドレイ視点~
「不躾な真似、申し訳ございません」
「い、いえ…あの、少しお手伝いいただきたいのですが…」
足元でぐちゃぐちゃになったドレスの裾を指差してジョエルが困ったように小首を傾げる。
その様子があざとくも可愛らしい、と思いながらファンドレイは頷いた。
「……では一度、あちら側に体を捻っていただけますか」
「ええ」
ジョエルの体の向きを変えさせ、ファンドレイは左手を伸ばしてドレスの裾を持ち上げた。
そのときチラリと白く艶かしい脚が見えて、一瞬息が詰まりそうになる。
(平常心だ…! こんなことで慌てていたらその程度の男だと思われる)
ファンドレイはぎゅっと眉間に皺を寄せ、何でもない素振りをした。
巻き込んだ裾を整えてからジョエルの膝の裏に左腕を入れて、右腕で背中を支えてグイ、と持ち上げる。
空いた隙間から、ファンドレイは彼女の下敷きになっていた自分の足を引き抜こうとした。
「あっ」
突然のことに驚いたのか、ジョエルがファンドレイにしがみついてきた。
彼女の胸がむにゅっと押し付けられて、その甘美な柔らかさに心が跳ねた。
ファンドレイは思わず彼女の名前を呼んだ。
「っ、ジョエル様」
「ご、ごめんなさい…あたくしとしたことが…先日からお恥ずかしいところばかりお見せしてしまって」
ワザとだ、と分っている。
分っているのに、こんなにも動揺してしまう。
(くそっ…)
高嶺の花が、今こんなに近くで自分の腕の中にいる。
ただ美しいだけではなく、仕草一つ一つが可愛らしく見えてくる。
(この悪女め…っ)
これは計算だ。計算なのだ。
わかっているのに、彼女から目を離せない。
どうして自分が、こんなに追い詰められなくてはならないんだ、と段々理不尽な気持ちになってくる。
(…別に、俺が望んだわけじゃない――)
彼女のふっくらとした唇はもちろん、その下の大きな果実が自分を誘っている。