第8章 売られた喧嘩~ファンドレイ視点~
ファンドレイは、誰かがガゼボを覗いているのに気づいた。
(誰だ…?)
目を閉じていても、その気配がわかる。
ギ、ギ、とガゼボの床板が軋んだ。
「あ…」
誰かの小さな声に、ファンドレイはカッと眼を見開き、誰かの右腕を掴んだ。
「誰だ!!!」
随分と細い腕だ、と思えば。
「きゃっ…あっ!」
女がいきなり起き上がったファンドレイに驚いてバランスを崩す。
「おいっ…!」
それに気づいたファンドレイは、ぐいっと掴んだ女の右腕を引っ張った。
「ひゃっ」
気づけばファンドレイの腕の中に女が飛び込んできていた。
一体この女は何なのだ、と思っていると、女は慌てたようにファンドレイの腕から逃れようとする。
しかし、長いドレスの裾が邪魔をして思うように立ち上がることができないらしく、じたばたともがいている。
「ご、ごめんなさい…!」
(誰だ…?)
ファンドレイは女の腕を離すのも忘れて彼女をじっと見つめた。
「あ、あの…?」
恐る恐る自分を見上げる女の顔を見て、ファンドレイは呆け、そして何故彼女がこんなところに?と疑問を持った。
「――ジョエル、様…?」
「あ……」
深い青色の瞳に、自分が映る。
驚いたような表情。
目元のホクロと、白い肌。
誘うように赤い唇に目を奪われてしまったことに気づいて、ファンドレイは視線をそらそうとして、また見てしまった。
彼女の、白く柔らかそうな胸の、谷間。
ファンドレイは慌ててジョエルの瞳に視線を戻した。
(下を見るな…!)
そう自分に言い聞かせ、ファンドレイは自分を落ち着かせるため、ふぅ、と息を吐いた。
「こんなところに…お一人、ですか?」
なんだって彼女はこんなところに来たのだろうか。
ガゼボは愛を囁く場所。
真昼ならまだしも、夜、女が一人で来るところではないのに。
「えぇ…酔い覚ましに…」
気恥ずかしそうに、ジョエルが流し目を送ってくる。
ファンドレイはびっくりして、彼女を凝視した。