第7章 スブレイズ家の人々
(でも…ディナントに、相手がファンドレイ様だって言わなくてはならないのよね)
どうしたらいいのかしら、と再びジョエルは頭を悩ませた。
ディナントは、秘密を守ってくれるだろうか。
カトリアナに伝わればそこで終了だ。
母はスピーカーのようなもので、彼女に掛かれば根も葉もない噂だって瞬く間に広がってしまう。
そうなればファンドレイはどうなるだろうか。
シドリアンが開いたパーティーで、シドリアンが想いを寄せている公爵令嬢に手を出した、なんてことになれば。
(駄目だわ、そんなことになったら…)
最悪の場合、騎士団から追い出されるかもしれない。
(…婚約しているわけではないのだし…そこまでは、さすがにしないわよ…ね…?)
いつも笑顔で、ジョエルに優しく接してくれるシドリアンだが、何を考えているのか全然わからないところがある。
とはいえ、ここでディナント以外に頼れる者と言えば。
(プレイラはどうかしら…)
プレイラ経由で手紙を送り、またプレイラ経由で向こうから返事を貰えればいいのではないだろうか。
ディナントを経由するより時間はかかるが、今のところ一番安全な手だろう。
まずは一度手紙を渡してもらい、会う約束を取り付けなくてはならないのだ。
(…プレイラを呼んで…)
そこでふと思い出す。
以前プレイラが来たとき、マールは傍にいただろうか。
ファンドレイの話をしていた際に人払いした記憶があまりない。
(もしかして、マールは全部知っているの…?!)
彼女は昨日のパーティーの参加者は知らないはずだ。
けれど、ジョエルがファンドレイ・オーランジという人物に好意を寄せていることを、お茶会の場で知っていたかもしれない。
(た、確かめなくては…!)
ジョエルは慌てて自室から飛び出した。