第7章 スブレイズ家の人々
「マール? どこにいるの?」
ベルを鳴らして、彼女が部屋の前までやってくるのを待つ。
ほどなくして、マールが息を切らしてやってきた。
「――お呼びですかっ、ジョエル様…っ」
「急がせてごめんなさい。ちょっとあなたに聞きたいことがあるの。中に入ってちょうだい」
マールを引っ張り込むようにしてジョエルは部屋の中に戻った。
何事かと驚いているマールに、ジョエルは真剣な顔で問いかけた。
「マール、あなた……その、どこまでご存知なの?」
「…どこまで、と言いますと…?」
「あたくしの、その、あの…ど…」
「ど…?」
「どっ…ドレスの…件、よ…」
それ以上はもう言えない!とジョエルはマールに背中を向け、お願い察して、とばかりに両手を握り締める。
「――どこまで、と言われましても…背中の紐を結んだのが、侍女ではないだろう、ということ、くらいでしょうか」
「あ、相手は…」
「…もし、お相手が騎士団の方でしたら、マラドス様はお喜びになるのではないでしょうか」
(や、やっぱり知ってるのね…!)
「しかし、紐を結ばれたのがその方かどうかは――」
「わかったわ。では…その方のことだけは、あなたの心の中だけに留めておいてちょうだい」
「畏まりました」
「あなたに…後で、プレイラ宛の手紙を渡すわ」
「はい」
頭を下げるマールに、ジョエルはほっと一息つく。
「もうそろそろ、画家の方がいらっしゃるのかしら」
「はい。後ほど、お着替えをお願いいたします」
「わかったわ」
マールはするりとジョエルの部屋を出て行った。
これできっと大丈夫。
こんなにも早く昨夜のことが知られてしまうなんて思ってもみなかった。
自分はファンドレイのことを好いている。
ファンドレイもおそらくはそう、だと思いたい。