第7章 スブレイズ家の人々
「ディナントも?」
「不要だとは思うけどね」
ジョエルが隣の弟に声をかければ、いかにも面倒だという風に肩を竦める。
三つ歳の離れた弟も、カトリアナに似て整った顔をしている。
黒い髪に青い瞳、ジョエルと違って泣きボクロはないが代わりに唇の斜め下辺りにホクロがある。
口元のホクロは艶ボクロ、もしくは"たらし"ボクロなどと言うらしく、泣きボクロと同じく色気をもたらすものである。
色々と大変なことになるのでディナントと同じ社交場に顔を出すことはないのだが、聞けばジョエルと同じような状況らしい。
とはいえ、ディナントはジョエルと違って社交的、恋愛に関してはむしろ肉食系のため、社交界というものを多いに楽しんでいるようだった。
「ところで、姉さん」
「何かしら」
「どんな男が相手か知らないけどさ、蝶々結びはちゃんとできるような男じゃないと駄目だと思うよ」
「…一体何の話なの?」
「まぁ、ディナント…!」
ディナントはほんの少し声を顰めるものの、カトリアナにもマラドスにも筒抜けである。
カトリアナが諌めるように彼の名前を呼んだが、ジョエルは何のことかわからず首を傾げた。
「背中の紐、どこの男に結んでもらったの?」
「えっ?!」
「な、何だとっ?!!!」
「ディナント…!」
ガチャン、とカトラリーがそこかしこで音を立てる。
「マールったら、どうしてディナントにまでそんなことを…」
「お母様?!」
「マールに教えたの、俺だからね」
「あら、そうだったの」
それなら仕方ないわね、とカトリアナはころころと笑った。
事態が飲み込めなくてジョエルとマラドスは混乱する。
「ど、どういうこと…? マール、教えてちょうだい」
ジョエルが給仕のため傍に控えていたマールに声をかけると、彼女は少し迷ったようにカトリアナに視線を送った。