第7章 スブレイズ家の人々
侍女のマールに付き添われてジョエルは朝食のため自室を出た。
昨日はあまり眠れなかったので、頭が重い。
目を瞑って横になってはいたものの、ガゼボでの出来事が思い出されて何度も飛び起きた。
その度に恥ずかしさに枕に突っ伏し、落ち着いたら横になり…を繰り返し、浅い眠りについたのは夜明け頃だった。
「やはりお部屋に戻られますか?」
「あぁ…大丈夫よ。朝食に出なかったらお父様が心配するもの」
マールはジョエルを気遣っての発言をしてくれたが、両親は心配性だ。
特にマラドスが全然娘離れしてくれないのは、ジョエルがカトリアナにそっくりだからだろう。
朝食時に不在ともなれば、医師を連れてジョエルの部屋に乗り込んで来ないとも限らない。
朝食専用の部屋に入ると、すでに両親と弟ディナントが席に着いていた。
「お待たせして申し訳ありません」
朝の挨拶と共に頭を下げてから、ジョエルは自席に向かう。
「ジョエル。顔色が悪いようだが」
「どうしたの?」
マラドスとカトリアナがジョエルの様子に心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫よ。昨夜は少し気持ちが昂ぶってしまって、寝付けなかっただけなの」
「そう? 無理はしないでいいわ。今日の予定はキャンセルしてもいいのよ」
「ありがとう、お母様。でも問題ないわ」
そう言いながら、今日の予定は何だっただろうかと思考を巡らせる。
するとちょうど良くマラドスが「今日の予定?」と聞いてきた。
「あら、あなたが決めた予定なのよ? 覚えてないの?」
「あー…あぁ。画家が来る日だったかな」
「そうよ。ジョエルとディナントの肖像画を描いていただくんだって張り切ってらしたのはどなただったかしら」
「す、すまない」
スープを口に運びながら、ジョエルは記憶を探る。
肖像画を描いてもらうのは確か二度目だったはず。
十にも満たない歳で、長時間じっとしているのが辛かったように思う。