• テキストサイズ

【R18】君は華より美しい(仮題)

第1章 そんな出会いだった


 ジョエルの頭に一瞬で様々なことが駆け巡った。
 ドレスが破れてしまったら。
 太ももが露わになったり、もしかしたらどこかに引っ掛けて胸が出てしまうかもしれない。
 もしくはただズルリとずっこけて、とても格好悪いことになってしまったら。
 さっきあんなに一生懸命格好つけたのに!とジョエルは見当違いな心配をした。

「ジョエル様っ…!」

 招待客たちがジョエルの名前を呼ぶのと同時に、ガッとお腹に衝撃が来て、ジョエルは「うっ」と呻いた。

「大丈夫ですか」

 どうやら誰かが転ぶ前に受け止めてくれたらしい。
 ドッドッドッと早鐘を打つかのように、心臓が動いている。
 吃驚した拍子に乱れた呼吸を整えようと、ジョエルは大きく息を吸った。

「う…は、はい、何とか…ありがとうございます」

 ジョエルの細い体を受け止めてくれたのは、真っ白な騎士団の団服を着た青年であった。
 お礼を言いながら顔を上げると、鈍色の髪の彼はひどく不機嫌そうな顔でジョエルを見下ろしていた。

(ど、どうしてそんな怖い顔をしているの?!)

 ジョエルは驚いて彼の顔を凝視した。
 すると、彼はますます眉間の皺を深くする。
 琥珀色の瞳がスゥ、と細められた。

(あたくし…睨まれているのかしら…?)

 先ほど落ち着いたはずの鼓動が緊張で再び高鳴ってくる。
 どうしよう、と思ったそのときだった。

「ジョエル様! お怪我はありませんか?!」

 侍女が慌てた様子でやってきて、ジョエルを椅子に座らせる。

「え、ええ、大丈夫よ」

 この方が助けてくださったの――と言おうしたが、すでに彼はどこかへ消えていた。

「ジョエル様、大丈夫ですか?」
「ええ…ちょっと、靴が引っかかってしまったようで…」
「それはいけない! すぐに新しい靴を用意させましょう」

 そう言って複数の男たちがバタバタとし始めるのを、ジョエルはぼんやりと見ていた。
 心配そうな顔、ご機嫌を伺うような顔、そして笑顔。
 そう言った顔はたくさん見てきたが、あんな風に面と向かって睨まれたことなどあっただろうか。

 
/ 158ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp