第1章 そんな出会いだった
(そう、そういうもの。綺麗って言われても、それはいつも通りですね、っていうことだわ。緊張しないのよ、ジョエル。いつものことでしょう。大丈夫よ)
ジョエルは自分に言い聞かせて、自室を出た。
向かう先は、階下。
今日は、スブレイズの屋敷のパーティーなのだ。
自分の家なのに、部屋から出るのにこんなにも気合いがいるなんて、とジョエルはため息をつく。
階段手前の扉を開けようと手をかけた状態で立ち止まり、深呼吸をする。
(大丈夫、いつも通り…あたくしは、スブレイズ家の娘よ)
ゴージャスで気品のある外見とは反対に、ジョエルは上がり症で恥ずかしがりだった。
扉を少し押すと、それを合図にして向こう側に居る侍女が扉を開けてくれる。
着飾った人々が一斉にジョエルを見上げた。
ジョエルはおへその辺りで組んだ手をぎゅっと握りしめながら、階段の上からニコリと微笑む。
「ジョエル様だわ」
「今日も本当にお美しい…」
「いつ見てもお綺麗でいらっしゃる」
そんな言葉が飛び交うも、ジョエルは別のことで頭が一杯だった。
今回のパーティーの主催はスブレイズ家。
主催者はジョエルの母、カトリアナだがジョエルは母に代わって挨拶をしなくてはならないのだ。
「皆様。本日はお集まりいただきましてありがとうございます。母、カトリアナに代わりましてジョエルがご挨拶させていただきます」
ドレスの裾をほんの少しつまみ、ジョエルは令嬢の挨拶をする。
「それでは皆様、どうぞごゆっくりとお寛ぎくださいませ」
パチパチパチパチ、と拍手が起こる。
それに再度微笑みと会釈を返し、ジョエルはゆっくりと階段を下りていく。
本来であればエスコート役が居るのが普通だが、彼女の場合、エスコート役の争奪戦が始まってしまうので毎回一人か、侍女を伴うしかなかった。
無事挨拶を終えたことで緊張の糸が緩んだのか、最後の一段をジョエルは踏み外した。
「あっ…!」