第1章 そんな出会いだった
「ジョエル様、今日のドレスは何色になさいますか?」
「んん…今日はプレイラが来るかしら」
「ええ、いらっしゃるご予定でございます」
「プレイラがいるのなら…そうね、暗い色がいいわ」
「まぁ、ジョエル様…もっと華やかなお色みでなくてもよろしいのですか?」
「いいのよ。わかっているでしょう?」
「それはそうですが……、畏まりました。では深紫のものをご用意いたします」
「ありがとう」
そんな会話はよくあること。
侍女たちは皆、ジョエルを彼女の母のようにもっと派手で、華美に飾り立てたい!と思っていることをジョエルは十分わかっている。
けれど、ジョエルは目立つのが好きではなかった。
(あたくしは、ひっそり、こっそりと生きていたいのだけど…)
十二歳を越えたあたりから、ジョエルの体はどんどん大人になっていった。
心は追いつかぬまま、ジョエルは女としてそれは美しく成長した。
社交界デビューをしたのは十五のときであったが、押し寄せる男たちは恐怖の対象でしかなかった。
それゆえ、結婚相手を探すための社交の場はジョエルにとって拷問に近く、二十歳を過ぎても結婚相手が決まらないという状態になっていた。
求婚する男は増えるばかりで一向に減らないので、いつでも結婚はできるのだが。
侍女にコルセットを締め上げられつつ、ジョエルは手袋を嵌める。
母の趣味のせいで、ジョエルのドレスはどれもこれも胸元が大きく開いている。
ジョエルはせめてもう少し肌の露出を控えたい、ダンスを踊る際に直に触れられたくない、ということで長い手袋を愛用していた。
ドレスと同じ色の手袋をきっちりと肘まで上げて、ジョエルは目の前の鏡を見る。
見慣れた顔が無表情にこちらを見ている。
(この顔のどこがいいのかしら)
常々そう思っているが、ジョエルが視線を向けるとどんな男も相好を崩すので、そういうものなのだ、と受け入れざるを得ない。