第5章 売られた喧嘩
ショールのお陰で首周りや体のラインがほどよく隠れた。
入り口付近ではプレイラが居て、人々の視線を引きつけてくれていた。
ジョエルはなんだかスパイにでもなったような気持ちになりながら、シドリアンを初め他の者に見つからないようにと中庭へ急ぐ。
早く、彼に会いたい。
あのときのように、鋭い目つきで自分を見てくれるだろうか。
逸る心のせいか、お酒のせいか。
心臓がドッドッドッと大きな音を立ててジョエルを焦らせる。
(たった一度しかお会いしていないのに…なぜこんな気持ちになるの…?)
中庭の奥へと進んでいけば、ガゼボの前に何か落ちていた。
「あら…?」
それを拾い上げてみれば、真っ白な騎士団の団服であった。
ジョエルはそれを思わず胸に掻き抱く。
(もしかして、ファンドレイ様の…?)
膨れる期待に胸が一杯になりそうだ。
ジョエルは団服を抱きしめたまま、辺りを見回す。
月灯りを浴びる彼女の姿はこの世のものとは思えぬほど美しかったが、目にする者は誰もいない。
花壇の花さえ、蕾を閉じて黙していた。
(あれは…)
ガゼボの中に、誰かいる。
ジョエルは恐る恐る、内側を覗いた。
「っ…!」
ベンチに寝そべる人物に、ジョエルは息を呑んだ。
両手で口を押さえて声を抑える。
そこには、ここ一週間考えなかった日はないほどにジョエルの心を揺さぶった男の姿があった。
(ファンドレイ様…)
やはり、この団服は彼のものだったのだ。
ジョエルは眠る彼の体に団服をかけようと思い、ファンドレイに近づく。
ギ、ギ、とガゼボの床板が軋んだ。
彼に近づいて身を屈めようとしたとき、肩にかけていたショールがするりと落ちた。
「あ…」
それを拾おうとしてジョエルは団服を左腕にかかえ、右手をショールへと伸ばした。
そのときだった。
「誰だ!!!」
突然、眠っていたファンドレイが眼を見開きジョエルの右腕をガシリと掴んだ。
「きゃっ…あっ!」