第17章 恋は盲目
「今日の茶葉はゴールドリーフ領の物です。カトリアナ・スブレイズ公爵夫人が用意してくださったの」
王妃の言葉を皮切りに、侍女達が紅茶をそれぞれに給仕し始める。
母が用意したなどと聞いていなかったジョエルは、伏し目がちに頭を下げた。
「ようやく婚約者が決まったそうね。おめでとう」
「あ…はい、良縁に恵まれまして、この度婚約となりました」
「とても驚いたのよ。パルマンティエ公爵のところへ行くのだとばかり思っていたから」
「そ…それは…」
「そうしたら、まさかハーベスト伯爵令嬢と婚約だなんて」
いきなりの本題にジョエルは何と返答すればいいのか混乱してしまう。
助けを求めてプレイラを見るも、今更話しかけられているのはジョエルであって、彼女が口を挟むことはできない。
「息子たちが嘆いていたわ。社交界の華がいきなり二人とも居なくなると」
「そのように仰って頂けて光栄です」
「貴女の婚約者の…オーランジ男爵のご子息だったかしら。先程ちらりと見えたけれど…どんな方なの? ぜひ聞かせて欲しいわ」
にっこり笑う王妃様に続いて「そうですわね、お聞きしたいわ」と次々に口にするのは他の参加者…いわゆるマダム世代のお方々だ。
口にせずとも興味津々でこちらを見ているのはジョエルと同世代前後の令嬢方。
あのシドリアン・パルマンティエを振ったのだ、そうなるのも仕方ないことである。
「そう、ですね…。ファンドレイ様は、その、あまり社交的ではないのですが、とてもお優しくて…。騎士団で剣をふるう姿も力強く…そう、ですね、シドリアン様とは正反対の方で…」
「そういえば、第一部隊に昇格したと聞いたわ。彼はかつてのスブレイズ公爵と同じ道を歩んでいるのね」
「カトリアナ様へのプロポーズ、今でも思い出せますわね」
「ええ、そうね。あの時も驚いたけれど、見ていた私達でも憧れざるを得ないほど劇的でロマンチックだったわ」