第17章 恋は盲目
今すぐにでも口づけて欲しいと思うほどの距離感。
そんなことを考えてしまったジョエルは、一気に恥ずかしくなってぽっと頬を染めて俯く。
そんなジョエルに、ファンドレイは何を思ったのか耳元で囁いた。
「男を誘いに来たのか」
ムスッとした顔の彼にジョエルはぱちくりと目を瞬かせてから、こてんと首を傾げて言う。
「ファンドレイ様がお気に召すように、と」
「っ……中まで送る」
「はい、よろしくお願いいたします」
鋭く睨みつけてくるのに、エスコートを申し出でくれたファンドレイにジョエルは内心両手を上げて喜びたかった。
(上手くいったわ…!)
するりと彼の腕に手を添え、当たり前のように胸を押し付ける。
これでファンドレイが意識してくれるのならば、ということでもうすでに習慣のようになっていた。
ちらりと彼を見てみるが、眉間に皺を寄せたまま前方に視線を向けており、目が合うことはなかった。
ただ静かにサロンの中を進み、テーブルへとエスコートされる。
すでにほとんどの参加者は席に着いており、その中にはプレイラの姿もあった。
「ジョエル・ライツ・スブレイズ・ゴールドリーフ様、お着きになられました」
案内の侍女が傍に控えていた給仕の侍女へ告げて下がり、ジョエルは席に案内された。
ファンドレイが椅子を引いてくれるので、ジョエルは優雅な身のこなしで席についた。
「ありがとうございます」
「では……」
去り際、ファンドレイはさっと跪き、驚いたジョエルの手甲に口づけてから足早にその場を去って行った。
「あ…」
まさかあのファンドレイがそのようなことをするなんて思いもしなかったジョエルは、戸惑いを隠せない。
突然で、一瞬の出来事にポカンとしてしまう。
「――あら…貴女でもそのような顔を為さるのね」
くすくす、と口元を扇で隠して笑ったのは上座へやってきた王妃だった。
参加者は皆慌てて立ち上がり、王妃へ各々挨拶と招待の礼を述べる。
ジョエルもそれにならい、最後の参加者の挨拶が終わると皆着席した。