第17章 恋は盲目
身支度を整えたジョエルは公爵家の家紋の入った馬車に揺られて王宮へと向かった。
小さな窓から変わりゆく景色を眺めながら、何度も深呼吸をする。
(大丈夫よ、ジョエル。堂々と、そしてお母様のように艶やかに振る舞うのよ)
いつもの夜会のように、ゆったり動いて微笑む。
(ファンドレイ様がいらしたら、ショールをずらして背中を見せる…)
頭の中で繰り返し想像するが、その先が思いつかない。
やってみればどうにかなるものなのだろうか。
馬車から降りて、王宮の奥へと進んでいく。
案内役の侍女の後ろについて歩いているとサロン入り口に騎士団員が二人ずつ、左右に別れて立っていた。
その中にファンドレイを見つけたジョエルは、緊張にこくりと喉を鳴らす。
ファンドレイだけに背中を見せるのは難しいだろう。
どうしましょう、と立ち止まりたい気持ちはあれども実際止まることはできなくて。
このまま通りすぎるしかないのかしらと焦ったのが悪かったのか。
長いドレスの裾を踏まぬように歩くのは存外難しい。
気を取られ過ぎたのか、ジョエルはそこで裾を巻き込んでしまいつんのめった。
「あ…っ!」
ぐらり、と傾いだ身体を支えてくれたのはファンドレイだった。
「ジョエル様っ」
はらり、と狙ったようにショールが落ちる。
意図せず上手くいったことに、ジョエルはほっとして僅かに微笑んだ。
幸運にもそれを見ることのできたファンドレイ以外の騎士団員達は、美しいジョエルに釘付けになった。
そして顕になった背の白く滑らかな様に頬を染める。
同じくしてファンドレイも大きく開いた背中に目を奪われる。
思わず手が伸びてしっとりとした肌に触れてしまうが、すぐに我に返りショールを拾い上げてかけ直した。
「っ、大丈夫ですか」
「えぇ…ありがとうございます…」
ジョエルは縋るようにファンドレイの腕に身体を預けたまま、上目遣いに彼を見た。
(近い…)