第17章 恋は盲目
その日は朝から忙しかった。
というのも、マールとカトリアナの気合いの入りようが違っていたのだ。
朝に湯浴みなど普段はしないのに、朝から身体を綺麗にされ肌がきめ細やかになるようにと念入りに化粧水と香油を塗り込まれた。
おかげ様で血色も良くなり、化粧のりも抜群。
髪型もばっちりの縦巻きロール。
そしてドレスはなんと胸元が開いていない。
その代わりに背中側がぱっくり、である。
「まぁ…」
「ウフフフ、素敵でしょう? 後ろ姿で悩殺するのよ」
「王妃様方の前ではこちらのショールをかけていただきます」
「……」
「あら、この子わかってないわね? いい?きっとファンドレイは警備か何かで近くにいるはずよ。しっかりアピールなさいな。ショールを落とすなり躓くなりして、気を引くのよ! そして背中を見せる!」
「は、はぁ…」
「きっと触れたくなるはずよ。そうしたら中までエスコートしようとするに違いないわ。周りにファンドレイの他に人がいれば尚良いわね」
カトリアナはジョエルへの熱弁が止まらない。
「もう婚約しているからって気を抜いちゃいけないわ。何度でも惚れ直させて、私がいないと生きていけないって思わせるのよ。愛する人に深く愛されること、それが女の一番の幸せよ。その為には常に努力しなくっちゃ。美しいだけじゃ飽きられてしまうのよ」
「飽きられ…」
確かに、この胸一つでは飽きが来るかもしれない。
ファンドレイは他にどこが好きなのか、いまいち分からない。
「分かりましたわ、お母様」
グッと口を引き結び、ジョエルは努力することを心に誓う。
ファンドレイを身体で籠絡するのだ。
勿論、それはすでに完了しているのだがジョエルはそこまで考えが及ばない。
自分なりのやり方など思いもつかないので、普段からの母の振る舞いを思い出して真似をすることにしたのであった。