第17章 恋は盲目
ジョエルが王妃のお茶会に招かれたことで、母カトリアナは張り切っていた。
ファンドレイと結ばれたことで娘のぎこちなく作った笑顔が自然なものになりつつあり、それはとても喜ばしいことだった。
カトリアナとマラドスの大恋愛劇は、カトリアナの一目惚れから始まり押しに押しまくって、半ば無理やりのようにマラドスに求婚させたもの。
よって二人の結婚への反対というものはほとんど無かった。
しかし今回、ジョエルとファンドレイの婚約は突然のものだったので二人が愛を育んできたことを知らぬ者は多い。
ジョエルはあちこちのお茶会に行くようなタイプでもないため、良いもの悪いもの含めてあらゆる憶測が飛び交っていた。
王妃は噂話が大好きだが、いたずらに嘘か真かわからぬことを周囲に話すようなことはしない。
つまり王妃が確認したことは真実として流布していくのだ。
ここはしっかりと娘と義婿の仲を理解して貰わなくては。
あの王妃のことだ。
ファンドレイを警備か何かで会場近くに配備するに違いない。
そこでいかに仲睦まじい様子を見せつけられるか。
(ジョエルの姿を見ればエスコートするのが婚約者の務めだけれど…勤務中だものねぇ。あたくしなら問答無用でエスコートさせるけれど…ジョエルはそんなことさせないでしょうね)
むむむ、とジョエルに良く似た美しい顔をしかめる。
涼しい顔をしつつ、ジョエルの胸元に目が釘付けになっているのが丸わかりな婿である。
やはりぱっくり開いたドレスで送り出して、手を出さずにはいられないようにするしかない。
(今からで間にあうかしら? 既存のドレスじゃダメだわ…)
とはいえ、昼間の王妃のお茶会である。
夜会のドレスほど露出するのも宜しくない。
(難しいわね。ジョエルがもっと積極的なら問題ないのに…。プレイラちゃんとは大違いだわ)
あの子も上手くやったものね――カトリアナは純粋そうな笑みの仮面を被った少女を思いながら、娘の部屋へと向かったのだった。