第17章 恋は盲目
とはいえ、それが嫌だとは思わないのだけれど。
今でも口数が多いわけではないが、そもそも本当に必要なこと以外話さない彼のそういう一面にどぎまぎさせられていることに違いはない。
シドリアンや他の令息などに「あなたを独占したい」というようなことを何度も言われてきたが、その度に嫌悪感が沸いていたのが嘘のようである。
ファンドレイならばどんな言葉も甘くとろけるような耳障りがする気がするのだ。
ファンドレイの背に手を回して、ジョエルは彼の鼓動を感じる。
余裕があるように見える彼の、意外と早い鼓動にジョエルはこっそり微笑む。
彼のこういうところも好きなのだなと思いながら気の済むまで腕の中に収まっていた。
スブレイズ邸に戻ってきたジョエルは自室に届けられていた複数の手紙に目を通した。
ファンドレイとの婚約が決まったのに、いや、決まったからこそ、夜会への招待が増えていた。
相手がいる場合は婚約者を伴って夜会へ行くことが基本なため、本人からぜひとも話を聞きたいと思う者は多いのだろう。
男爵と公爵で二人には身分差がかなりあるため、恰好の噂の的なのである。
もちろんファンドレイが騎士団の第一部隊であるということは周知の事実なのだが、これはジョエルの父が歩んだ道と同じであることが話題となる要素になっていた。
「これは…」
招待状の一つ、一際分厚いそれにジョエルはため息をつく。
一目見てわかる型押しの紋様は、王族のもの。
王妃様が不定期に開催するというそのお茶会は、今話題の人物を呼びつける――野次馬根性丸出しのものである。
その日付けを見れば、ファンドレイと会えない日に被っていた。
(もしかして…この警備なのかしら? それならば
一目でも見られるかもしれないわ!)
憂鬱だけれど、仕事中の彼を見られるのは嬉しい。
それにこのタイミングなら、きっとプレイラも招待されていることだろう。
彼女がいれば心強い。
ジョエルはベルを鳴らしてマールを呼んだ。
(ドレスは…どんなものがいいかしら)