第17章 恋は盲目
公爵家の紋の入った馬車から降りて、いつものように図書館へと向かう。
すると回廊の向こう側からやってくる、見慣れた姿が目に入った。
白い布地に青色のリボンが映える騎士団の制服。
歩く度に裾がひらりとはためいて、そこにだけ颯爽とした風が吹いているような。
ジョエルの心はドキリと跳ねる。
(あぁ、なんて素敵なのかしら)
思わずぼうっと見惚れていると、彼もジョエルに気付いたようだった。
「ジョエル」
ファンドレイがさっと駆け寄ってきてジョエルの左手を取って口づけた後、いかにも自然に腰に手へとを回す。
この一ヶ月ですっかりエスコートすることに慣れた彼に、ジョエルはほんのりと頬を染めた。
「お会いしたかったですわ」
そう言ってファンドレイを見つめれば、彼はいつもと変わらぬ険しい顔をこちらに向けてくる。
その厳しい眼差しに毎度のことながら胸がキュンとする。
この胸の高鳴りがファンドレイにも聞こえないだろうか、などと考えたのかどうか定かではないが、ジョエルは意図して腰を抱く彼の体にむぎゅっとたわわな膨らみを押し付けた。
彼の視線が注がれるのがわかる。
それが嬉しいのだ。
「来週のことだが」
図書館の入り口に差し掛かろうとしたときだった。
ファンドレイが次の約束のことについて言及するときは大抵が不都合で来れなくなるという知らせであった。
「お仕事、ですのね」
「ああ」
「そうですの……仕方ありませんわね」
図書館で一人待ちぼうけになるのも困るので、必要な連絡事項なのだが会えなくなるのかと思うと悲しくなってしまう。
結婚してしまえば、毎朝毎晩一緒にいられるのに。
(仕方ないのはわかっているのだけれど…)
はぁ、とため息をつけばちょうど司書の目に止まったらしく、チラリと視線がこちらに向いた。
「ご機嫌よう」
条件反射で作った笑顔を見せて会釈をすれば、司書は一瞬戸惑ったような表情を見せたあと会釈を返してくれた。