第3章 ドキドキする理由
ファンドレイがガゼボで時間を潰そうと瞳を閉じるよりも遡ること四日前。
つまり、スブレイズ邸でのパーティーの二日後のことだ。
ジョエルはプレイラをお茶会に呼び出した。
「ジョエル様。お招きいただきましてありがとうございます」
「来てくれてありがとう、プレイラ。いつものようになさって?」
「それでしたらジョエル様も、いつものように」
ジョエルの言葉にプレイラがくすりと笑ってそう返せば、ジョエルは先ほどまでニコニコと浮かべていた笑みを消した。
「――笑うのは疲れるわ」
固まった顔の筋肉をほぐすように、ジョエルは頬を押さえる。
「プレイラのように自然にできたらいいのだけれど…」
「仕方ないわ。無理してパーティーに出ているんだもの」
笑うのも苦手、人前も苦手なジョエルには、結婚相手を探すためのパーティーは苦痛だ。
プレイラはそんな彼女のことをよく知る一人だった。
はぁ…と物憂げにため息をつくジョエルを見て、プレイラは苦笑する。
ジョエルは黙っているだけで十分美しい。
顔に表情がなくとも、その魅力は十分ある。
というより、ジョエルは笑わない方が良い。
いつも暗めの色味のドレスに長い手袋、口数も少ないミステリアスな雰囲気は、彼女が深窓の令嬢であることを物語る。
社交界デビューの日に酷く怖い思いをしたジョエルに、頑張って笑うように勧めたのはプレイラだった。
全く笑顔を見せないのは、初めての社交場で緊張しているからだ、と思った人々はジョエルの緊張を解してあげよう、と必死にアピールをしたのだろうとプレイラは推測する。
ジョエルは社交界デビューするまであまりあちらこちらに顔を出すようなことがなかったが、彼女の両親があまりにも外部で娘のことを褒めるので、男たちの期待が高まっていたことも原因の一つ。
彼女の笑顔が見たい――そう思った者がどれだけいたことか。
『口角さえ上がっていれば大丈夫よ。にこにこ笑っていれば、きっと相手も満足するわ』
そう言われて、ジョエルは顔に笑顔を貼り付けるようになった。