第3章 ドキドキする理由
笑顔という仮面を得て、ジョエルはスブレイズ公爵家の令嬢として虚勢を張るようになった。
男たちからのアピールは一向に減らなかったが、彼女の笑顔はある意味牽制にもなったようだった。
その後すぐにプレイラが社交界デビューを果たすと、ジョエルに熱を上げていた貴公子たちのおよそ半数がプレイラに心を移したので、ジョエルは心の底から安堵したのだ。
「どうしたらいいのかしらね…」
結婚なんてしたくない。
けれど、結婚相手が決まらなくては延々とパーティーに出なくてはならない。
同年代の令嬢は次々と結婚を決め、社交界から姿を消した。
プレイラもいつ相手が決まるのかわからない。
ジョエルは焦っていた。
プレイラがいなくなれば、また自分が標的になってしまうかもしれないからだ。
「プレイラは…その、心に決めた方は…?」
「そうね…良さそうな人は何人か。でも、決め手にかけるような気がしているの」
「そ、そう…」
先ほどから、ジョエルは落ち着きなく手をもじもじさせているのにプレイラは気づいていた。
何か聞きたいことがあるけれど、恥ずかしい、どうしよう、というときの彼女の癖だ。
「…ジョエル」
「な、なにかしら」
「私に、聞きたいことがあるんでしょう?」
「……ええと…」
ジョエルの目が落ち着きなく動く。
公爵令嬢であるときとは大違いで、素のままの彼女はいつも自信なさげで、頼りない。
プレイラはそんな彼女を守ってやらなければ、という使命感を持っていた。
「た、例えばの話なのだけれど」
「例えば…?」
「え、ええ、例えばの話よ」
この流れで、例えばの話とはどういうことか。
そう思いはしたが、そこを突っ込んでしまっては話しが進まなくなるので、プレイラはこくりと頷いて先を促した。
「その、ある人のことを思い出すと…心臓がドキドキして、落ち着かないの」
ジョエルの白い肌がほんのり赤く染まっていることに気づいてプレイラは驚いた。
まさか、ジョエルが恋をした、とでも言うのか。
恐る恐る、プレイラはジョエルに問いかける。