第16章 新しい世界
「――ジョエル様。部屋が水浸しになってしまいます」
「あっ…そう、そうね、ごめんなさい」
諫める言葉にハッとしてジョエルは立ち上がった。
「もう出るわ。ありがとう」
マールに体を拭いてもらい、保湿のための美容液を塗り込んでもらってから下着をつける。
その際にしっかりとファンドレイの付けた跡を見られてしまって、ジョエルはまた羞恥に震えた。
ジョエル自身は気づいていなかったが、胸の他にも首筋など数か所赤くうっ血していて、マールはそれを隠せるドレスを探さなくてはならなかった。
「ご結婚に際して、ドレスを新調しなくてはなりませんね」
「え?」
「これまでのようなものではなくて…ジョエル様好みのデザインに致しましょう」
「本当? それは嬉しいわ。お母さまにお願いしても中々許して下さらなかったのに。いいのかしら」
「私の方からご報告いたしますので、ご心配なく」
「そう。ありがとう、マール」
ジョエルはにこりと笑った。
大きく胸の開いたドレスをもう着なくていいというのはとても嬉しいことだった。
しかし、はたと思い出す。
ファンドレイは胸が好きだということに。
(今までのドレスじゃないとダメなのかしら)
ジョエルは初めて母好みのドレスを手放してはいけないのでは、と思った。
ファンドレイの視線は大概胸にあると言っていいだろう。
プレイラに教えてもらった通り、ことあるごとに強調してみたのだから間違いない。
他の人ならばそれだけ見られると気持ち悪いしおぞましいのだが。
うんうん考え込んでいると、マールが用意してくれたドレスが目の前に掛けられた。
ジョエルの好きなハイネックデザインで、重苦しくないよう総レースになっている深い緑のドレスだった。
これは肘まで袖があり、背中も露出がない。
いつもなら何も文句のつけどころのない選択である。
「……マール」
「はい、なんでしょう」
「あの…もう少し、その…」