第16章 新しい世界
(さっきからこの繰り返しだわ…!)
コルセットで胸を隠し、ドレスを手繰り寄せてファンドレイをキッと睨みつけようとしたときだった。
コンコンコンとドアをノックする音が聞こえて、ジョエルはひゃっと首を竦めた。
「お嬢様――ジョエル様。いらっしゃいますね?」
(も、もうダメだわ……)
マールの声だった。
ジョエルは真っ青になってその場にへたり込むしかなかった。
いつの間にか衣服を身に着けたファンドレイがマールを部屋に招き入れ、眉を釣り上げた彼女とジョエルが対面した後。
テキパキとコルセット、ドロワーズ、ドレスと人形のごとく着せられてからジョエルは自室へと連行されるようにファンドレイの元から引き離された。
自室の奥には湯浴みの準備がされており、有無を言わさず浴槽に押し込まれる。
「あ、あのマール…」
「何でしょうか」
「お、お父様にはこのこと内緒に」
「すでに報告済みです」
「えっ」
「当然です」
「そそそ、それでお父様は…」
「ご自分でお確かめになって下さい」
「その、ああたくしささ最後までは」
「当然です!! まだ結婚前でございますよ!」
「ごめんなさい…」
パシャン、とお湯が揺れる。
はぁ…とため息をついてジョエルは項垂れた。
その視線の先でふんわりと浮く乳房に、赤い花が咲いているのを見つけてドキリとする。
ファンドレイのつけた跡だ。
そっと指でなぞると、彼の唇に触れたような気になる。
(まだ…この先があるのよね…。あたくし、こんなことで大丈夫なのかしら)
ぐちゃぐちゃに乱れてしまって、もう訳がわからなかった。
でも気持ちいいことだけは確かで。
もっともっとと求めてしまった。
この先、もっと気持ち良かったとしたら。
(た、耐えられないわっ…)
浴槽の中で両手を振り回してバシャバシャ暴れるジョエルに、衝立の向こうで控えるマールは頭を抱えていた。