第16章 新しい世界
「嫌だったなら、もう二度としない」
「う、ぅぅぅ…っ」
そんなことを言われたらもう黙るしかない。
ファンドレイは意地悪だ。
他の人のようにジョエルの顔色を伺うように笑いかけたりお世辞や社交辞令を言わない。
そう、そういうところに惹かれたのだけれど。
「嫌だったか?」
「〜〜〜〜っ、意地の悪いこと言わないでくださいませっ!」
「感想を聞いているだけなんだが」
「それが意地悪なんですわ」
「俺はとても良かった」
「そっ…」
ジョエルは耐え切れなくなって、シーツを頭からすっぽり被って隠れることにした。
その様子を見たファンドレイが笑ったらしく、ベッドが小刻みに揺れたのでジョエルはシーツの中でますます丸くなった。
「そろそろ迎えが来るんじゃないか」
「迎え…?」
一体何のことか、とジョエルは丸まった状態のまま首を傾げる。
「部屋に帰らなかったからな」
「……あっ…」
ジョエルのいない部屋を見て、マールが一体どんな反応をするのか。
昨日の様子を思い出せば容易に分かる。
(ど、どうしましょう?!)
髪の毛はボサボサだし、ドレスもベッドの横に脱ぎ散らかしてある。
こんなところマールに見られたら。
母親はともかく、父親にこのことが耳に入ったら。
慌ててジョエルは立ち上がり、コルセットを拾いあげた。
が、しかし。
(ど、どうやってつけるのだったかしら)
いつもは立って両手を広げておけば、マールが全て着付けてくれた。
公爵令嬢は自分で着替えたりしないのだ。
呆然と立ち尽くすジョエルに、呑気な声がかけられる。
「――いい眺めだ」
ハッとしてファンドレイを見れば、明らかに目線が胸にあった。
シーツに包まっていたジョエルだったが慌ててベッドから降りた際に抜け出してしまったのだ。