第15章 華に焦がれる ~side ファンドレイ~
(厄介な…)
マラドスはとんでもない義父だった。
ただの馬鹿親かと思えば、娘を溺愛するばかりにややこしく拗らせていた。
堅物で知られていたあのマラドス・スブレイズが。
ファンドレイは何とも言えず、ただ神妙な顔をして義父を見返すしかない。
「ジョエルはアレと違って奥ゆかしい。君がリードしたまえ」
アレ、とはカトリアナのことだろう。
語りぐさとなっている公衆の面前での求婚劇は、カトリアナの催促によるもの…などという噂もある。
いや、催促どころか演出をしたのかもしれない。
やはり何とも言えないファンドレイは、真面目な顔を崩さずマラドスに会釈だけを返した。
そうしてジョエルの方を振り返ると、すぐに彼女が寄ってきてファンドレイの腕を引く。
すると案の定腕に当たる主張の激しい柔らかさに喉の奥がひゅっとするが、そんな様子はおくびにも出さない。
彼女がわざとやっているのか、何も考えていないのかはわからないが、今後こうやって寄り添う機会はごまんとあるのだから早く慣れなくては…とファンドレイは思った。
「マール、案内して」
「はい、お嬢様」
ジョエルの命により、どこか不服そうな顔をした侍女のマールに先導されてファンドレイは賓客用の部屋へと案内された。
ジョエルはファンドレイの後ろをついてきていて、このまま彼女も部屋に入るのだろうかと思った矢先。
マールがジョエルの行く手を阻んだ。
(まぁ、当然のことだな)
これでマラドスにも言い訳が立つだろう、そう一安心するかと思われたが、ジョエルが口を開く。
「ファンドレイ様とお話しがありますの」
「ではお茶をお持ちしますね」
「……」
マールの返答にジョエルは何も返さなかった。
一体何を考えているのか、無表情の彼女からはさっぱり伺えない。
膠着状態の二人を動かしたのは、ディナントだった。