第15章 華に焦がれる ~side ファンドレイ~
男達からの視線が痛い。
ジョエルを望んだ者がどれほどいたことだろうか。
独身者だけではなく、すでに結婚して妻を伴ってこの場に来ている者でさえ、ファンドレイに嫉妬していた。
あのシドリアンが相手だと諦めたはずなのに、蓋を開けてみれば男爵家の自分だったのだ。
有り得ない、妬ましい、という感情が滲み出ており、ファンドレイは改めてジョエル・スブレイズが高嶺過ぎる存在なのだと思い知る。
格差婚、逆玉の輿。
陰で何と言われるだろうか。
そんなことを考えていたら、突然隣でジョエルが艶やかに笑った。
それまでは無表情に周囲を眺めていたのに。
ファンドレイの意識が心ここにあらず、といったのを察したのか彼女は絡めた腕にむにゅんと胸を押し付けてくる。
あっという間に視線がその膨らみに引き寄せられたが、すぐに我に返って前を見た。
(くっ…からかっているのか)
相変わらず小憎たらしい。
ジョエルのペースに巻き込まれないようにしなくては、とファンドレイは唇を引き結んだ。
長々としたマラドスのスブレイズ公爵としての話が終わり、宴もたけなわ。
ジョエルとファンドレイは先に下がることとなった。
今夜は泊まっていくようにと促されて、断る理由もないので言葉に甘えることにした。
「ファンドレイ」
マラドスが神妙な表情でファンドレイの名を呼ぶ。
何か大切なことなのかと傍に寄れば。
「うむ。泊まっていけとは言ったが…まだ結婚前だ。わかっているな?」
「は――、ええ、はい」
面食らいながら頷けば、マラドスがまた続けて言う。
「しかし、だ。ジョエルは美しいだろう。男であれば放ってはおけぬであろうな」
「……」
「無論、婚約しただけではあるが…早く孫が見たいのも事実だ。とはいえジョエルは私の可愛い娘で」
「……」
どうしろと言うのだ。
これで手を出さなければ、娘に魅力がないとでも言うのかとなり、手を出せば結婚前だぞとなる。