第15章 華に焦がれる ~side ファンドレイ~
それが合図だとばかりにファンドレイはジョエルを抱き寄せる。
「これでアンタは俺のものだ」
「あっ」
久しぶりの逢瀬に我を忘れてしまいそうになる。
彼女の吐息ごと喰らい尽くそうと何度も何度も口づけて、そして耳を食む。
背中から細い腰、太ももへかけてそのラインを確かめるように手で辿れば、ぴくぴくと身体を震わせて甘く息を荒げる。
そんな彼女から匂い立つ色気にクラクラして、このまま組み敷いてしまいたい――そんな風に思った矢先。
「あたくしのお部屋…覚えていらっしゃる…?」
ジョエルの小さな声は、確かな意図を持ってファンドレイに届いた。
彼女に夢中になっていたが、ハッとして我に帰る。
そうだ、ジョエルが自分のプロポーズを受けたこの後は。
スブレイズ公爵からは、娘が結婚を承諾したのならすぐに婚約発表を行うと言われていたことを思い出す。
大勢の前に彼女を連れて行かなくてはならない。
こんなにも扇情的なドレスを着たジョエルをまた晒すことになるのは酷く気が進まない。
(何だってこんな際どいドレスを……)
もちろん似合ってないなんてことはないし、何度か見た夜会でのドレスとは全く違った様相で、さらに色気が増しているのだ。
潤んだ瞳が上目遣いでファンドレイを見つめて来る。
このままジョエルを押し倒したいという衝動に駆られて、ファンドレイは思わず頭を抱えた。
正しくジョエルは魔性の女だ。
でなければこんなに簡単に理性が吹き飛びそうになるものか。
彼女はわかっていてやっているに違いない。
こうやって自分が苦悩しているのを心の底で愉快に思っているのだろう。
そんな余裕など吹き飛ばすほどに抱き潰してやりたい――などと思いを滾らせたところだった。
「こんなところにいたのか、二人とも」
ディナントの登場によって、ファンドレイはなんとか気持ちを切り替えることに成功したのである。
そうしてスブレイズ公爵によってジョエルとの婚約が発表された。