第15章 華に焦がれる ~side ファンドレイ~
ダンスができないなんて言語道断だと、まさに鞭を振るう勢いだった。
しかし今ジョエルを目の前にして、その特訓がいかに重要なものかと言うことを思い知る。
きっちりとエスコートできなければ、シドリアンが手を引いたこの状況ではあっという間に他の男達に奪われてしまうだろう。
緊張が表に出ないように、そっと息を吐いて呼吸を整える。
ヴァイオリンとピアノに耳を傾け、一歩を踏み出す。
ジョエルの細い腰を抱きつつ、右へ左へ、前へ後ろへとステップを繰り返した。
このまま今すぐどこかへ連れ去ってしまいたい。
時折漏れる彼女の吐息。
ファンドレイを見つめる青い瞳に吸い込まれそうな気持ちになる。
ついぞ我慢できなくて、ぐいっと彼女の腰を引き寄せた。
「本当に、よろしいのですか」
「え…」
「――俺はもう、引き返せない」
ぎゅっとジョエルの体に力が入る。
しかしファンドレイはそれに構わず続けて言った。
「アンタが欲しい。だから…他のヤツのことなんか、忘れろ」
シドリアンのことなど忘れてしまえ。
俺のことだけを見ていればいい。
そうファンドレイが思うように仕向けたのは他でもない、ジョエルだろう。
あの日、あのガゼボで出会わなければ、こんなにも熱く燃えるような衝動に駆られることはなかったはずだ。
ジョエルが欲しい。
ただひたすらにそう思ったのだ。
目の前の女が笑う。
今まで見たことのない歓喜の表情だった。
「そんな必要ありませんわ。あたくし、初めからあなたのことしか見ておりませんもの」
ファンドレイはすかさずジョエルをバルコニーへ連れ出した。
暗がりの中、ふわりと鼻をくすぐる女の芳香にくらりとして、ジョエルの体を掻き抱いた。
ファンドレイの背にジョエルの手が回る。
必死にしがみついてくる彼女は、まるでもう離さないと言っているかのようで。
あぁ、もしかして。