第15章 華に焦がれる ~side ファンドレイ~
「ジョエル様」
「……」
背後から声をかける。
すると彼女はとても緩慢な動きでファンドレイの方を振り返った。
怯えたような表情をするので、一体どうしたのかと詰め寄りたい気持ちをグッと堪えようとして気づく。
深く切れ込みの入ったドレスの胸元に目が釘付けになった。
「第一部隊への昇格、おめでとうございます」
くっきりとした谷間と、ふわふわと柔らかそうな膨らみが凶悪なまでに男を誘う。
ジョエルの言葉も上滑りしていくほど、ファンドレイの本能がそこへ引き寄せられていった。
ジョエルが自らファンドレイに左手を差し出したことで、ようやく我に返る。
その行為は「あなたを待っていた」という意思の表れで、公爵令嬢が下級貴族に簡単に行うようなものではなくて。
そんな行為に、ジョエルに声をかけようとしていた者や、遠巻きにファンドレイを見ていた者などがざわめく。
ファンドレイはジョエルの気持ちに応えるべく、すぐさまその手を取った。
滑らかな肌に唇を落としながら思う。
(早く、この全てを俺のものにしたい)
心も体も、全部暴いてしまいたい。
どれだけ焦がれたことか。
「――遅くなってしまい申し訳ございません。スブレイズ公爵に先程お許しを頂いてきました」
そう言ってファンドレイはジョエルの左手を握ったまま、空いた手で彼女の腰を引き寄せた。
ジョエルを他の男と踊らせる気はない。
周囲から見れば彼女にはもう二度と、誰にも触れさせないのだと主張しているように見えるだろう。
(よし、できる)
ダンスは苦手だ。
しかしジョエルの相手を務めるのなら、ダンスは必須。
身のこなしの硬いファンドレイにダンスの特訓をさせたのは自分の母親だった。
それもそのはず、突然公爵家からの夜会の招待状が届いたのだ。
ファンドレイの生家は男爵で、身分違い甚だしい。
母親は卒倒しかけたものの、すぐに持ち直して鬼となった。