第15章 華に焦がれる ~side ファンドレイ~
背を向けて立つ男にファンドレイは頭を下げた。
この邸で行われる夜会で、男の娘との婚約が発表されることが決まったのだ。
「わかっているな。もし泣かせるようなことがあれば――」
「誓って、そのようなことは」
スブレイズ公爵の娘への溺愛ぶりは聞き及んでいる。
ファンドレイは唇を真一文字に引き結んだ。
何かあったら、ただではすまないだろう。
「それと。娘に似た孫を早々に頼む」
「は…はい?」
くるりとこちらを向いた義父になる男、マラドスはにっこりと微笑んだ。
見慣れない真紅のドレスに目を見張る。
背中が露わになっているそのデザインは彼女の好みではなさそうだったが、よく似合っていた。
華奢な白い手にぐっと力が入るので、彼女が向いている方向、その先を見れば。
(シドリアン・パルマンティエと…プレイラ?)
遠目に見ても分かる、仲睦まじそうな雰囲気の二人。
これは一体どういうことなのか。
そしてそんな二人を見たジョエルは相当な衝撃を受けているようで、呆然と立ち尽くしている。
そんなジョエルにファンドレイの心がちりりと焦げ付く。
(まだあの男が気になるのか?)
腹が立った。
あんな卑怯な男のどこがいいのか。
(俺を見ろ)
シドリアンのことだけではない。
ジョエルの周りには虎視眈々と彼女を狙う貴族の令息どもがにじり寄ってきている。
あれはもう自分のものなのに、と思うと我慢できなくなった。