第14章 華に焦がれる
心配そうにしているマールを促して、ジョエルとファンドレイは夜会の騒がしさから逃れた。
賓客のための部屋へと案内されるファンドレイの後ろをついて行こうとして、ジョエルはマールに止められる。
お嬢様はお戻り下さい、とばかりに通せんぼされてむっとしてしまう。
「ファンドレイ様とお話しがありますの」
「ではお茶をお持ちしますね」
「……」
これがカトリアナなら、持って来なくてよろしくてよ、と艶然と微笑んで終わりなのだがジョエルにはそんな余裕はこれっぽっちもない。
どうしたものかと思ったそのとき、突然ディナントが現れた。
「マール、姉さんのお守りはもう卒業してもいいんじゃない?」
「ディナント様、しかし」
「もう姉さんだっていい歳だし、婚約者との間ならあれやこれやあったって構わないって」
「あ、あれやこれや…」
さすが、あの母あってこの息子あり、だろうか。
ディナントの言い様にジョエルは絶句する。
「それよりさ。ワイン零れちゃったんだけど、これシミ抜きできる?」
「まぁ…! ディナント様、一体とういう状況でこんなことになるのですか?!」
くるりと回って背中を見せるディナント。
どんな零し方なのか理解できないくらいの、わざわざぶち撒けたようなワインのシミにマールが目を剥く。
ディナントは肩を竦めておどけるだけなので、マールは小さくため息をついた。
「早く脱いで下さい」
「うん、ありがと。ごめんね?」
そこらの女性なら蕩けてしまうような微笑みでも、マールに取っては見慣れたもの。
ディナントの肩からするりと上着を抜き去って、ジョエルにこう言った。
「お嬢様。どうぞ慎みをお忘れなく」
一礼してマールはディナントの上着を手に、廊下の奥へと早足で去って行った。
ディナントはにこにこ笑ったままその後をついて行く。
残されたのはファンドレイとジョエルの二人。