第14章 華に焦がれる
「……」
「…お部屋はここですわ」
数秒顔を見合わせた後、先にジョエルが切り出した。
扉の取っ手に伸ばそうとしたその手をファンドレイが引き止める。
「中に…部屋に、入る気なのか」
「え?」
そのつもりだったのに、ダメなのだろうかと首を傾げてファンドレイを振り返りつつ見上げれば、彼の目つきがまた鋭くなった。
「一歩でも中に入ったら……簡単には出られなくなる」
「それはどういう意味で――」
「わからないのか?」
背後から覆いかぶさるようにしてファンドレイが接近してくるので、ジョエルはカチンと凍ったように動けなくなってしまった。
(こ、これは…お母様の言う通りにすぐに湯あみに行くべきだったのかしら?!)
体裁を整えてから来るべきだった。
ただ、ちょっと部屋に入って愛を語らうというか、なんというか…そういうことをしたかっただけで。
それより先のことは、ちゃんと自分も準備をした上で、なんて考えていたのに。
部屋に入るべきか否か。
(ど、どうすれば…)
ノブに掛けた手に力がこもる。
視線を彷徨わせているとファンドレイの腕が腰に回った。
「あ…」
「抵抗しないのなら、このまま部屋に入るぞ」
「そ、それは意地悪ですわ…!」
「それはこっちの台詞だ」
イラっとしたような口ぶりにジョエルは一体なんのことかと思ったが、腰を抱かれた上さらにノブにかけた手を大きな手で包み込まれてしまえば、もう思考は完全に停止状態となる。
このまま部屋の中に引きずり込まれたら、きっと何もかも許してしまうだろう。
それでも、恥じらいと理性が足を引き留めていた。
それなのに。
「ジョエル」
耳元で名前を呼ばれてしまっては、もう抵抗できない。
(本当に意地悪な人……)
くたり、とファンドレイの肩口に頭を傾ける。
するとそれを待っていたかのようにひょいと抱き上げられて、ジョエルはびっくりして彼の首にしがみつく。
「きゃっ…!」
小さな悲鳴を上げたジョエルを無視して、ファンドレイは部屋の中に入っていった。