第14章 華に焦がれる
(ファンドレイ様はもうあたくしのもの…ですのね)
そう思うと意識せずとも笑みが溢れ出したのに自分でも驚いた。
ぎゅっとファンドレイに腕を絡ませて密着すれば、彼が驚いたように一瞬ジョエルを見たがまたすぐに前を向き直す。
相変わらずの仏頂面がジョエルにはとても輝いて見えた。
両親によって婚約発表はトントン拍子に進み、当人達はほぼ何も言わぬままただ突っ立っていただけでつつがなく終了した。
「ジョエル、疲れたでしょう? もう下がっていいわよ」
「ファンドレイ、君にも部屋を用意してある。明日、馬車を登城させるからゆっくりするといい」
両親に言われてジョエルは素直に甘えることにした。
「湯浴みなさいますか」
「あ…そうね…どうしようかしら」
介添えに来てくれたマールに尋ねられて、ジョエルがちらりとファンドレイを見れば、何やら父に話しかけられている様子。
本当は早く二人きりになりたいのだが。
「お嬢様、恐れながら…婚約なさったとはいえご結婚前でございます」
「なっ…わ、わかってますわ……きゃ!」
マールの言葉にジョエルは顔を真っ赤にしていると、背後から腰に華奢な腕が回されて驚く。
「何を言ってるの。さっさと湯浴みしてらっしゃい。私が選んだ夜着があるから、それを着るのよ」
「夜着…」
「奥様、それは」
「マール。固いこと言わないの。今どき、結婚するまでは、なんて人いないわよ」
「さすがにそれは言い過ぎではないでしょうか…」
開けっぴろげな母にジョエルは頭痛がするような気になって頭を抱えた。
そういうところは厳格な父がどうしてこんな母に惚れたのか。
以前から思っていたが本当に不思議でならない。
そんなことを考えていたらファンドレイが父から解放されたので、ジョエルはすぐにその腕を取った。
ゆっくりしていたらいつまで経っても二人きりになれない。
「マール、案内して」
「――はい、お嬢様」