第14章 華に焦がれる
そのため、ジョエルはやや俯きがちになりながら父の言葉を聞いていた。
「――ファンドレイ・オーランジを婿養子として迎える」
現スブレイズ公爵の言葉に再び周囲がざわめく。
スブレイズ公爵家の後継ぎは長男であるディナントで、ジョエルはシドリアンと結婚しパルマンティエ公爵家に嫁ぐだろう、というのが大方の予想だったからだ。
しかし、ジョエルが嫁ぐのではなく婿を取るということになれば、跡継ぎ筆頭候補のディナントの立場が危うくなる。
外見は勿論のことだったが、公爵家の長男という立場に心を寄せていた者も少なからずおり、なんてことだと気を落とす様子が見えた。
当のディナントはいつものようにニコニコと人当たりの良さそうな笑顔を浮かべている。
(ディナントは公爵位に執着がないから、仕方ないことだわ。……ファンドレイ様はどう思ってらっしゃるのかしら)
婿養子になる、ということは承知済みなのか。
ジョエルの知らないところで一体どこまで話が進んでいたのだろうか。
もっと早く知っていたのなら、あんなに寂しい思いはしなくてもよかったはずだ。
父といつどこで話していたのかわからないが、絶対一度は我が邸に足を運んでいるに決まっている。
それなのに会えなかったということは、父がそうさせた以外考えられない。
(あたくしのファンドレイ様なのに、酷いですわ)
下唇を噛みそうになるのを堪えながらジョエルはファンドレイが差し出した手に自身のそれを重ね、来賓に向けて微笑みを向けた。
「ジョエル様、ご婚約おめでとうございます」
プレイラとシドリアンが祝福してくれたのを皮切りに、招待客達からの拍手と「おめでとう」が乱舞する。
これでやっと、名実ともにジョエルはファンドレイの伴侶となった。
一部の令嬢から悔しそうな視線が届くのに気づいたジョエルは、初めて優越感というものを味わった。