第14章 華に焦がれる
彼が以前ジョエルの部屋に来たときと同じだ。
ぞくぞくする。
ファンドレイが自分を欲していると思うと、心がぎゅっと締めつけられているように苦しい。
早く、すべてを奪われたい。
そんな焦燥に駆られる。
「ファンドレイ様…っ」
身体の線を確かめるような彼の手の動きに、またぞわりと震える。
身体の奥が熱い。
まるで熟れた果実のようにじわりと滴る。
しかしこんなところでさらけ出すわけにはいかない。
「あたくしのお部屋…覚えていらっしゃる…?」
思い切って口にしたのはそんな誘い文句だったが、ファンドレイはピタりと動きを止めてしまう。
(あぁ、どうしましょう!? 女性から誘うなんてはしたないと思われてしまったのかしら…)
目の前で渋い顔をして自分を見下ろしているファンドレイをジョエルは泣きそうになりながら見つめ返す。
さらに言葉を重ねるべきか。
(こんなときはどうすれば良いの…)
ぎゅっと両手を握りしめているとファンドレイが両手で頭を抱えてしまうものだから、ジョエルはさらに焦ってしまう。
何か失言をしてしまっただろうか。
そう思ってファンドレイの腕に縋ろうとしたときだった。
「こんなところにいたのか、二人とも」
「ディナント?」
「姉さん、今夜の主役なんだから長く場を離れるのは良くないよ。母さんが待ちくたびれてる」
「あら、何かあったかしら…」
「何かって。何言ってるの、婚約発表だよ」
「まぁ、ディナントったらいつの間に? お相手はどなたなの?」
「はぁ? 姉さんがするんだよ」
「――え?」
「え?じゃないって――え、まだプロポーズしてないんですか、先輩」
「…した、つもりだが」
「じゃあ断られたとか」
「断るなんてありえないわ。ちゃんとお受けしました」
ツンとした態度を取るジョエルにディナントはため息をついた。