第14章 華に焦がれる
(あぁ、やっぱり。あたくしにはこの方しかいないのね)
誰にも感じたことのない胸のときめき。
ファンドレイだけがジョエルをドキドキさせるのだ。
「えぇ――もちろんですわ」
そうか。
このドレスに合わせた手袋がなかったのは、必要がないからだったのだ。
そこでようやく母親の計らいに気づく。
ジョエルの相手はただ一人。
そして彼の直接触れる唇は情熱的で。
手の甲はもちろん、指の一本一本をなぞっていく。
するとあの日のことが脳裏によみがえってきた。
彼に素肌をさらしたときと同じ、ぞくりとした感覚。
「これでアンタは俺のものだ」
「あっ」
強く引き寄せられ、ジョエルはファンドレイの胸に倒れ込むように飛び込んだ。
ぐい、と顎を掴まれたと思えばぬるりと口内にファンドレイの舌が入って来る。
「んっ…」
後頭部をがっしりと支えられながら、ジョエルは口づけに懸命に応えた。
互いの息をも吸い尽くすように舌を絡ませ押し付け合う。
誰かがバルコニーへ出てくるかもしれない。
いくら相手が婚約者であろうともこんなところを見られたら。
そんな考えがよぎるが、止められない。
「ん…ふっ…」
息苦しくなってきたところで、ファンドレイの唇が離れていく。
「っはぁ……んんっ?!」
一息ついたと思ってすぐにぬるっとした感触、そしてぴちゃ、という濡れた音。
耳を舐められたのだと気付いてジョエルはきゅっと肩を竦める。
決して嫌ではない。
嫌ではないのだが。
「あっ…だ、ダメ…っ」
くちゅくちゅ、と耳を舌でほじられる合間に漏れるファンドレイのハァ…という吐息が熱い。
たまらないくらい、色っぽいのだ。
(あぁ、嫌、いけませんわ、こんなの…っ)
内股がキュンとするような、身体の奥が締め付けられるような。
何とも言えないむず痒いような感覚がせり上がってくる。