第14章 華に焦がれる
ヴァイオリンとピアノの旋律に合わせて二人の脚が動き出す。
武骨なイメージのファンドレイだが、想像以上に軽やかなステップでジョエルをリードしていく。
彼の両手がそれぞれジョエルの手と腰をしっかりと捉えて離さない。
久し振りに感じる彼の体温にジョエルの身体は熱くなる。
(どうして会いに来てくださらなかったの?)
問いかけようと思っていた言葉が出て来ない。
ジョエルの紅い唇からはただ吐息が溢れるだけ。
重ねた手をきゅっと握り込めば、それに応えるように強く腰を引き寄せられ、耳元で尋ねられた。
「本当に、よろしいのですか」
「え…」
一体何が、と聞き返そうかとするより早く。
「――俺はもう、引き返せない」
ファンドレイの口調の変化にジョエルはピクリと体を震わせる。
「アンタが欲しい。だから…他のヤツのことなんか、忘れろ」
等身大の彼の言葉に、ジョエルの胸は高鳴った。
今まで出会った男の人とは全然違う。
あの睨みつけるような視線と、ぶっきらぼうな言葉使い。
そのどれもが新鮮で、真っすぐに自分の心に突き刺さる。
「ふふ」
思わず笑みがこぼれた。
人前で、こうやって本当に笑うなんてことがあっただろうか。
そんなことを思いながらジョエルは応える。
「そんな必要ありませんわ。あたくし、初めからあなたのことしか見ておりませんもの」
ジョエルの心にさざ波を起こしたのは彼なのだ。
「――ダンスはもういいか?」
「ええ」
ダンスを踊る人たちの輪から外れて、二人はバルコニーに出ていく。
月のない夜は星が美しく輝いて見えた。
(あぁ、なんてロマンチックなのかしら)
夢のようだわ、とジョエルはうっとりとファンドレイを見つめた。
真っ白な団服が夜に映える。
その体にジョエルはそっと身を寄せた。