第14章 華に焦がれる
「ジョエル様、今日のドレスは何色になさいますか?」
「暗い色がいいわ」
いつものやり取りをしながら、ジョエルは鏡に映る自分を見つめる。
たっぷりと化粧水や美容液を塗り込んだおかげで肌のツヤは良い。
けれど、目の下の隈はお粉では隠しきれずにくすんだ影を作っていた。
かと言って血色をよく見せようと頬紅を付けすぎるとさらに影が目立つので、いつもより薄くはたいてもらっている。
「ジョエル様…今日は少し明るめのものがいいかと思いますわ」
「……任せるわ」
頭の中はファンドレイのことばかり。
昇格試験が終わったらまたすぐに会えると思っていたのに。
第一部隊に昇格した彼の家に複数の縁談が持ち込まれたらしい、とカトリアナから聞かされたのは二日前のことだった。
もしかしたら、もうそちらで話がまとまってしまったのかもしれない。
(夜会の招待状じゃなくて、最初からお父様にお願いすれば良かったのかしら…)
公爵家からの縁談を断ることなんて、よほどのことがなければ子爵の立場からすれば無い。
形振り構わず爵位を盾にしていれば、今頃こんな気持ちにならなくても良かったはずだ。
(本当に、あたくしは要領が悪いのね…)
これがプレイラやディナントであったならば。
真紅の真新しいドレスを着せられながらジョエルは何度めか分からない溜息をつく。
招待状が送られているから、ファンドレイは必ず来る。
どんな顔をすればいいのだろうか。
彼の姿を見てしまえば、自分は一体どうなるだろう。
「あら…?」
身支度が完了したところで、ようやく気づく。
真紅のドレスはいつものように胸元がぱっかり開いたものではなかった。
とはいえ、中々深い切込みが入っており胸の谷間を強調するようにはなっている。
(ファンドレイ様、こういうのお好きかしら…)
他人に見られるのはやはり嫌だが、彼なら別だ。
見られるどころか弄られ、舐められて、吸われもしていることをふと思い出してジョエルはカァッと頬を染めた。
「ジョエル様、大丈夫ですか?」
侍女のマールが心配そうに顔を覗き込んで来る。