第9章 絡まる恋糸
(やべぇ全然おさまんねー…)
女子と初めての映画館デート。
スクリーンではアメコミのヒーローが触手と戦っている。
激しい戦闘シーン。手に汗握る展開。
それなのに、頭は映画そっちのけでゆめ美でいっぱいなおそ松とおそ松のおそ松。
勃起が収まりかけても、暗闇で超至近距離にいるゆめ美のシャンプーの香りが鼻腔を擽り、またすぐに血液が一箇所に集まるわけで。
(つか意識してんのって俺だけ?こーゆー時女子ってどうなんだろ?)
横目で左隣りを見る。
(…やーりたーい……じゃなくて!なんかフツーに楽しんでんな)
映画に釘付けなお隣さんは、けしからんことなど微塵も考えてなさそうだ。
じーーっと楽しそうに、犬だったら尻尾振ってるなこれという顔で、スクリーンの中、触手を切り刻み料理を始めたヒーローを見守っている。
(こんなに近いんだから、手ぐらい繋いでも…いいよな)
そろりそろりと手を伸ばすと、ゆめ美がくるりと振り向き目が合った。
おそ松は、かまうもんかとそのまま手をゆめ美の膝へ伸ばす。
キョトンとしながらまつ毛を揺らすゆめ美は、膝の上のポップコーンを笑顔でおそ松に差し出した。
どうやらゆめ美は、おそ松がポップコーンを取ろうとしたと勘違いしている。
(あらま…——ま、いーか)
拍子抜けしたおそ松は、軽く会釈してぐしゃりとポップコーンを鷲掴んだ。
なんてことないデートのワンシーンですら、ゆめ美とマトモなデートを初めてするおそ松には刺激に満ち満ちている。
ボリボリポップコーンを頬張りながら、おそ松は思った。
この笑顔を独り占めできたらなぁ、と。