第9章 絡まる恋糸
ヅタヤの前、おそ松を待ちながらゆめ美は賑わう通りを眺めていた。
気恥ずかしさから、冷たくしてしまったことを、ちょっとだけ反省する。
男の下半身事情を分かってはいるものの、知り合いが借りてるのを目の当たりにし、平然としていられるほどゆめ美に免疫は無かった。
そしてほんのりヤキモチも焼いたのだが、彼女自身それは無自覚である。
一分後、ニッカリ笑いながら赤いパーカーが出てきた。
「おまたせー。いやぁまさか、こんなとこで会えるなんて思わなかったよ〜」
「私もビックリしちゃった。今日は一人なんだね?」
「んないつもつるんでたら気持ち悪ぃじゃん。一人だからA……映画観に行こうと思ってたんだけどさ〜」
流石のおそ松も女子に向かい、「一人だからAVで抜く」とは言えないようだ。
「へーぇ、映画観る前にDVD借りに来たの?」
ゆめ美がジト目で睨むと、バツの悪そうに頭を掻いている。
「いじわる言わないでよー。こればっかりは生物学的にしょうがないじゃん?俺彼女いないしさぁ」
「あははっ!冗談だよ」
「冗談であんな目つきになんの!?まぁかわいいから何でもいーけど」
歩き始めたおそ松の隣を、何の気なしにゆめ美も歩く。
「あのさ、気づいてる?」
「え?何が?」
「俺とゆめ美ちゃん、二人っきりになんの今が初めてなんだぜ?」
そう言うと、嬉しそうにくしゃりと笑う。
その笑顔につられてゆめ美も微笑む。
「そうだね。そういえばそうかも」
「だからさ、このままデートしない?扶養の範囲内でなら頑張っちゃうからさ!」
扶養の範囲内って言葉の使い方おかしくないかな?と思いつつ、ちょうど予定も無かったのでゆめ美はおそ松の誘いに首を縦に振った。
「マジでー!ひゃっほーーい!!じゃあホントに行こうぜ映画館!俺ちょうど観たいのあったんだ!」
「あの、でもご両親に悪いから、自分の分は自分で払うからね?」
「へーきへーき!昨日競馬で勝ってそんくらいなら俺でも出せる!」
ガシとゆめ美の腕を掴むと、おそ松は歩調を速める。
「わ、分かったから待って!そんなに引っ張らないで!」
はしゃぐおそ松に圧倒されながら、ゆめ美は引き摺られるように映画館へと向かった。