第8章 トト子がいちばん!!
きたるお魚アイドル弱井トト子ディナーショーに向け、六つ子とゆめ美は兎にも角にも頑張った。
ビラ配り、SNSで拡散、予約電話の応対etc…。
そうして、あっという間に一月が過ぎ、ディナーショー当日になった。
・・・
「よいしょ」
夕闇迫る気忙しい商店街。
アカツカ亭の入口前に、スタンド看板が置かれた。
行き交う人は看板に一瞬だけ目をやり、すぐ前を向いて通り過ぎていく。
「ごめんね一松くん。お客さんなのに準備までさせちゃって」
「…べつに」
ゆめ美はドアに"本日貸切"と書かれた看板を掛けながら、口下手な一松が可愛らしくて口元に笑みをこぼした。
向き直り見つめると僅かに目が合い、そしてすぐに逸らされる。
「ありがとう。一松くんて、言葉は少ないけどとっても優しいよね」
「っ!!」
女子にまるで免疫のない彼にとって、その一言すら大打撃だ。
顔から湯気を立てながらも必死に返事をする。
「や、優しいとかじゃないっ!みんな動き回ってるから、自分も手伝ってるフリしてるだけだし…」
「実際手伝ってくれてるんだから、フリにはならないんじゃないかな?」
「ーーーッ!!」
ついに全身から発汗し始める。
「一松くん?」
何がそんなに恥ずかしいのだろう?と照れに照れる一松の顔を覗き込むゆめ美。無自覚とは恐ろしいものである。
(ち、近い近い近い!!精神的にも肉体的にも距離が近いーーーッ!!)
一人でゆめ美と対峙するなんて無理だ、寿命が削り取られる、せめて他の兄弟もいれば会話の流れをバトンタッチ出来るのに、と無駄に気負い過ぎて意識の波に溺れかけたところで助け船が出された。