第7章 あの約束、忘れちゃダメだよ?
意を決し、今度はチョロ松がゆめ美へ質問を返す。
「あのさ、ゆめ美ちゃんの趣味は何なの?」
「私?うーーん…」
目線を上に向け、考える素振りを見せると、
「読書、漫画、アニメ、音楽…いろいろあるけれど、仕事が一番楽しいかな!」
「へぇ…かっこいい!僕も仕事が楽しいとか言ってみたい!」
「かっこよくないよ。休みの日なんて、ほとんど一人でゴロゴロしてばっかりだもん」
そう言いながら、また青白い月を仰ぐ。何故か寂しげな横顔に、チョロ松は何か聞かれたくないことでもあったのかと思い、ワザと明るい声音で話題を変えた。
「あのさ、そういえば、アカツカ亭ってすごいよね!あのお店の内装、店長のセンスハンパない!」
どうやらその選択は正しかったらしい。ゆめ美は嬉しそうに目を輝かせる。
「そうだよね!私、料理も音楽も、『好き』を追求してる伯父さんをすごく尊敬してるんだ!」
「尊敬してる人のもとで働けるなんて羨ましいよ。就活中の僕からしたら、働いてるってだけでゆめ美ちゃんもすごいしさ」
「そっか、みんな就活してるんだっけ」
…六つ子は好んでニート暮らしを謳歌しているのだが、ゆめ美には就活中という設定を植え付けている。
「私も身内って立場に甘えてるだけで、此処に来る前はいくつも落っこち……あっ、もう着いちゃった」
アパートの前で歩みを止めると、会話は終わりを迎えた。
ゆめ美はチョロ松にくるりと向き直り、胸の中に芽生えた寂しさを隠すように笑顔を向ける。
「送ってくれてありがとう!みんなによろしく伝えといて」
「うん!あの…じゃ、じゃあね」
照れながらどもるチョロ松が可愛いくて、ゆめ美の胸に甘い気持ちがほんのりと芽生える。
「またねチョロ松くん。おやすみ」
「おやすみ…!」
頬を染め、への字口をキュッと閉じて手を振るチョロ松に手を振り返し、ゆめ美はドアの鍵を開けた。