第7章 あの約束、忘れちゃダメだよ?
部屋に入ると、ゆめ美はベッドにダイブして枕に顔をうずめた。
心地良い疲労感に襲われながら、今日一日を振り返る。
(大人になってトランプで一日費やすなんて、思ってもみなかった…)
身体が弱かったゆめ美は、周りに迷惑をかけたくないという思いから、他人と距離を置く癖がついてしまっていた。
なんとなく会話し、なんとなく笑い、なんとなくクラスに馴染み、登校しても休んでも、さほど気にかけられない存在感を自ら作り出していた。
幼少の記憶、些細なトラウマというものは、心の奥に根深く残っているものだ。勿論それは誰にも見せないし、それを吐露することで誰かに心配をかけたくもなかった。
そんなゆめ美だから、仲良くなることは嬉しくもあり不安でもあった。
(ホントは分かってる。迷惑をかけたくないんじゃなくて、迷惑をかけて嫌われたくないだけ。臆病なだけだって…)
だが、トト子といる時は違った。トト子の強烈な個性と美貌は、一緒にいると安心感を抱くのだ。
自ら主役ではなく、好んで脇役になるゆめ美にとって、眩しすぎるほど可愛いトト子の影となり、寄り添うのは居心地が良かった。
と——今までは、そう思っていた。
そう思っていたのに、六人を思い出せば、胸の中に妙な違和感が湧き起こる。それは幼稚かもしれなくとも、ゆめ美の素直な感情。
(みんな、これからも私と仲良くしてくれる…かな)
枕を抱きしめごろんと寝返りを打ったタイミングで、ラインの通知音が軽快に響く。
送り主はトド松だった。
『ねぇねぇ、あの約束忘れちゃダメだよ?』
『あの約束って?』
『一緒に出かけるって言ったでしょ?楽しみにしてるから。おやすみー♪』
女の子みたいな可愛いスタンプの追撃に思わずフッと笑みが溢れる。
おやすみの挨拶を送り返し、画面をオフにした途端、睡魔に襲われ瞼が重くなってゆく。
(私にも、友達が出来たんだ……トト子だけじゃなく………あれ、でも…私の……気持ちは——?)
一日中遊んで疲れきった身体は、眠気に争うことなど出来る筈もなく、ゆめ美はそのまま深い眠りに落ちていくのだった。
8章へつづく