第5章 トランプやるけど、どうせ来ませんよね…?
——話はさかのぼること三日前…
「あのさ、一時間はお店の前いるよね?どうしたの?」
ランチタイムが終わりゆめ美がドアを開けると、ドアの横には紫のパーカーにジャージ姿のあの男が突っ立っていた。
窓に映る彼を気にはなっていたが、店が混んでいたので話しかけられなかったのだ。
「…どうせ、何松か分かりませんよね…」
「一松くん…でしょ?」
「あぁ、逆に分かりやすいか。死んだ魚の目をして一番クズなのがおれだから…」
ニタニタ薄気味悪い笑みを浮かべ毒づくのは、不器用な彼なりの照れ隠しである。
「そ、そんなこと思ってないよ。みんな個性的だから自然と覚えちゃったの。で、何か用かな?」
「……」
「一松くん…?」
全身から発汗し、あっちこっち目を泳がせる一松を心配そうに覗き込む。
十秒後、やっとこさ彼の口が開いた。
「あ、あの…トランプやるけど、どうせ来ませんよね…?」
「えっ?一松くんちで?」
「……!!」
ぱぁっと明るい笑顔になったゆめ美は彼には眩しすぎた。一瞬心臓が止まりかけるほどだ。
(ダメだ、次微笑まれたらもう死ぬ……なんで…おれが…こんな目に!!)
拳を握りしめ、向かいの道路先にあるコンビニに目をやると、雑誌を立ち読みする五人の兄弟達が見える。
立ち読みするふりをしながら一松を監視しているのだ。
ゆめ美を家へ呼ぼうと兄弟で話し合い、あみだくじをした結果、誘うという大役を一松が任されるハメになってしまい今に至る。
運が良いのか悪いのか。他の兄弟にとっては当たりくじだが、不器用な彼には苦行でしかない。
人と関わるのが極端に苦手な彼が、奇跡的にゆめ美と会話出来ているのは、店の前で一時間精神統一したおかげだ。
「楽しそう!ほんとに行ってもいいの?」
(もっちろーん!!ボクたちみんなゆめ美ちゃんと遊びたくってさ!)