第29章 ※トド松エンド 人を好きになるって
ゆめ美がボンヤリそんなことを考えながら歩く背後で、カラ松がしみじみと呟いた。
「あぁ。変わったな。昔の引っ込み思案だったゆめ美とは大違いだ」
「昔?」
途端、ゆめ美の頭の中で誰かが自分を呼んでいる気がして目を瞑る。だけどその声はあまりにも儚く、一瞬で消えてしまった。
ゆめ美が不思議な感覚に囚われている隣で、チョロ松があきれたように返す。
「昔って大袈裟じゃない?僕らまだ年単位で絡んでないだろ」
「フッ、ブラザー達は、な」
「寒っ。どうせまた"オレは前世からの繋がりで〜"とか言っちゃうんだろ」
震える自身の肩を抱き、おそ松。
「まぁいいんだ。覚えているのがオレだけでも」
振り返りキョトンとしてるゆめ美に、カラ松はそれ以上何も言わず笑顔で返した。
ゆめ美は引っ越す前、少しの間だったが六つ子と同じ小学校に通っていたのだ。カラ松がその時のことを言っているのだとしたら——?
(もしかしたら、私——)
何かを思い出そうと、記憶の中を手探りで進むゆめ美だったが、十四松の声が引き戻す。
「ねーねー、そういえば一松兄さんどこに行ったのかなぁ?」
「え?わ、分からないけど、遅い時間だし心配だね」
ちょうど、河川敷に架かる橋に差し掛かった時だった。
「一松兄さんなら、今頃公然猥褻で捕まってるんじゃない?」
橋の向こう、暗がりから返事が返ってきた。
「あんれぇ?」
十四松が前を向けば、そこには肩で息をしながら浴衣の袖で汗を拭うトド松の姿があった。