第29章 ※トド松エンド 人を好きになるって
寝静まった街に下駄の音が響く。
少し飲みすぎたおそ松は、カラ松に肩を支えられている。そんな二人の前を、チョロ松、ゆめ美、十四松が並んで歩いている。
「にしてもさぁ、来られないなら連絡の一つくらいくれてもいいのにね」
励ますように、チョロ松。一方、ゆめ美は連絡をよこさない相手を庇うように首を横に振った。
「いいの。私が一方的に誘っただけだから」
とゆめ美が伝えると、チョロ松は少し驚いた様子で返した。
「ゆめ美ちゃんから?」
「うん」
「へぇ。ちょっと意外かも」
「どうして?」
「あまり自分から誘ったりしなさそうだから」
「たしかにー!」
十四松も横からひょっこり顔を出す。
ゆめ美自身も言われて気がついた。
小さな変化だが、消極的なゆめ美が自ら人と向き合おうとしている。
ゆめ美はふと考える。
六つ子と仲良くなる前の自分だったら、行動せずに始めから諦めて、でもそれが自分なんだと自分に言い訳をしていたかもしれない。
「私、確かにちょっと変われたかも。みんなと一緒にいるおかげで」
もしもあの日、六つ子との出会いが無かったらどうなっていたのだろう?そう頭をよぎったゆめ美だったが、"もしも"のその先はすぐに考えるのをやめた。せっかくみんなといるのだから、今は後ろ向きなことを考えるのはやめようと思ったのだ。
積み重なった想い出が、ささやかな日常が、今のゆめ美を彩っている。
六つ子と出会う前の自分を忘れてしまっているほどに、ゆめ美にとって彼らの存在は大きくなっていた。