第28章 トド松ルート2 バカになるのが恋ザンス
ゆめ美達が居酒屋で乾杯を始めた頃、トド松はアイダ、サチコとカラオケに来ていた。
三人は流行りの歌や夏の定番曲で大盛り上がり。
アルコールに任せ、ハイテンションでカラオケを楽しんでいる。
「サッチン、一緒に歌ってもいーい?」
「いーよ!はいマイク!」
CMでよく流れるアイドルソングのイントロが流れ出すと、女子二人はマイクを持ち立ち上がった。
「二人共うまいじゃん!」
なんて褒めながらトド松がリモコンから顔を上げれば、アイダは僅かに胸元をはだけさせ、サチコは浴衣が乱れるのを気にせずリズムに合わせて身体を揺らす。どちらも異性がいるのを忘れているかのように無防備だ。
なんてエロい状況なんだ、と思いつつも、トド松は何故か後ろめたくなり視線をリモコンへ戻した。
片思いのトキメキを歌ったアイドルソングに耳を傾けながら、カルアミルクをこくんと口に流す。
トド松は今、リア充真っ盛り。
クソ兄達を一歩リードしているニートの中のニート。
希望に満ち溢れた未来が見えなくもない洗練されしニートなのだ。
それなのに——
(なんだろうこの感じ。上っ面の会話、取り繕った笑顔)
いつもなら女子とわいわい出来るだけで楽しめた。
邪魔な兄達もいない。追ってきている気配だってない。
そう、今は何の心配もなく女子との時間を満喫出来るのだ。
(ボクはきっと大丈夫だって思ったんだ——)
あの子がいなくたって自分は平気。
そう思ってたのに。
あの日の出来事が何度もフラッシュバックしてはトド松の心をチクチクする。
嫉妬で暴走したみっともない自分なんか思い出したくもないのに。
ヘマをしたのを忘れたくて。
嫌われるのが怖くて。
否定されたくないから逃げて。
ゆめ美と向き合うのを避け、離れようと決めたのはトド松自身。
結果、充実した時間を過ごしているはずが心は満たされない。
(ボク、空っぽだ)
ユメがいないと。