第28章 トド松ルート2 バカになるのが恋ザンス
「あっははー!たーまやーー!!かーぎやーー!!」
十四松の声にハッと我に帰る。声の主は膝立ちで口元に手を添えて声を張り上げている。
「ケッ、やかましい奴」
なんて言いつつも、一松はこういう時の十四松のノリが嫌いじゃない。一松にとって十四松は暗く淀んだ心を照らす太陽だった。
「見てーゆめ美ちゃーん!」
はしゃぎすぎな十四松は、ビールをラッパ飲みして人間噴水をゆめ美にお披露目しだした。顔中の穴という穴からビールを噴射させる。
「十四松くんすごい!なんかすごい!どんな仕組み!?」
「ぼくもよく分かんなーい!」
「おいビール勿体ねーだろぉ。はーいお前ら飲んでー」
おそ松は十四松の噴水から出ているビールを器用に紙コップに注ぐと、チョロ松とカラ松の口へ無理やり運ぶ。
「ちょ、マジでやめ、お"ごぼご…!」
「ノーーーーゥッ!!」
「だはははっ!はいいっき、いっき!」
全力で拒絶する二人だが長男はそんなの御構い無しだ。悪びれる様子もなく豪快に笑う。
一松は盛り上がる兄弟達を傍観しつつビールをチビチビ飲んでいたが、ふとゆめ美の浴衣の柄が目に留まった。悔しいくらいに美しい末っ子色の牡丹が、ゆめ美を包み込むように咲き誇っている。
「あーぁ、花火終わっちゃったね」
名残惜しそうに呟くゆめ美。いつの間にか夜空は静寂を取り戻している。
「…あぁ」
闇に取り残された硝煙に心を隠し、一松は低く笑った。
・・・