第28章 トド松ルート2 バカになるのが恋ザンス
クライマックスに向けて夜空が一際華やぎ、音と光が幾重にも重なってゆく。
拍手と歓声が湧き起こる中、一松は隣を盗み見た。ゆめ美は瞳を輝かせ、すっかり花火の虜になっている。
「ねぇ」
ゆめ美の顔は空に向けられたまま。
聞こえていないのを確認すると、一松は軽く息をついた。
どうせ気づかない。ならなんだって言える。
こんなに好きなのに。すぐ側にいるのに。
「おれじゃ……だめなの?」
お前を寂しがらせてるあいつなんかより、おれの方が——
「一松」
「っ!?」
不意にゆめ美と目が合い、一松は毛を逆立てて目を剥いた。
「なっ…ちがっ!いいい今のは…!!」
「あれ見た?色が三色に変わったよ!」
「あ?」
「ほら、あっち!早く見ないと消えちゃう!」
ゆめ美は無邪気に花火を指差し微笑む。その頬は赤や青、さまざまな色に照らされ一松の目に幻想的に映し出される。
一松はコクリと頷くと、夜空を覆い尽くす花火をぼんやりと眺めた。
花火を見て悲しくなるのは初めてだった。
(おれじゃ……だめに決まってんだろ)
唇を噛みしめる。
もうやめよう。諦めよう。終わりにしよう。頭では分かっていても気づけばゆめ美を求めている。
人混みが嫌いでもワザと遠回りしてアカツカ亭がある通りを歩いた。路地裏で猫に餌をやりながらゆめ美が見つけてくれるのをいつも待っていた。寂しくてたまらない夜、ゆめ美を思い眠りについた。
けれど、ゆめ美が選んだのはぼくじゃなかった。
ねぇ。
誰かぼくに教えて。
この苦しさ、寂しさはどこにぶつければ——